四年目迎える愛の手話グループ”葦の会”聴力障害者の”耳”に…演劇で手話学ぶ、結成記念の「母の日」上演へ猛訓練

葦の会四年目迎える愛の手話グループ”葦の会”聴力障害者の”耳”に…演劇で手話学ぶ、結成記念の「母の日」上演へ猛訓練

聴力障害のための手話通訳グループ「葦の会」が発足して四年になる。その結成記念の五月十二日の母の日の上演を目指して同会の手話演劇の練習が週二回夜、神戸市立身体障害者福祉会館で続けられている。

同会が発足したのは、昭和三十九年五月。同年一月から始められた神戸市聴力障害者協会の手話講習会に「めぐまれない人のために奉仕活動をしたい」と同じ志を持って集まった人たちを母胎として生まれた。手話通訳三十年というベテランの竹中喜美さん(五四)を先生に週一回勤めの終わったあと、指を使ってのアイウエオの練習からスタート。聴力障害者となんとか意志の疎通が可能になったのは半年後だった。

聴力障害者は口話筆談、手話と互いにコミュニケーションをかわすことはできるが、相手が普通人や盲人となると会話は不可能に近い。聴力障害者の雇用先で起きた雇用者、職場の同僚とのイザコザ、身の上相談、身体障害者会議での聴力障害者と視力障害者との通訳など聴力障害者にとって手話通訳者の存在は、盲人の白いツエ以上に貴重なもの。同会発足当時から会員の活動機会はほとんど無限といっていいほどころがっており、会員はひっぱりだこ。しかし発足時二十人ほどいた会員も女性が多かったため結婚してやめていくケースが多く、先細りする傾向を見せ始めた。雨、風にめげず細く長く続けていこうという趣旨で「葦の会」と名付けられた同会だが、会員が新しく手話をマスターできるようにと演劇を通じて手話の練習を始めた。普通の練習では機械的でおもしろくない、小手先の手の動きでは表現力があまり豊かでないなどの反省から練習方法に演劇を採用したわけだが、手と体全体の動作で表現する演劇特有の大きなゼスチュアによって会員の表現力が豊かになったと、顧問の竹中さんも目を細めている。

脚本は竹中勇太郎作「雪女風土記」。貧しい村人のところへある日突然雪女が絶世の美女に化けて現われ、妻としてはた織りから家事まで引き受けてかいがいしく働いていた。ところが彼女を見染めた村の殿様から側室として献上するようツルの一声がかかると変わらぬ愛を誓い合っていたにもかかわらず命ほしさに彼女を渡してしまうというストーリー。同会会長の頂ヒナ子さんは「私たちの手話は幼稚ですが、人間同士の信頼とか愛のきずなといったものがいかにもろいものか、そのきずなを守っていくためにどれだけ努力しなければならないものか、といった原作のテーマが聴力障害者の方に理解していただければ大成功だと思います」と話している。

以上は、私の手元にある昭和43年3月6日(水)の神戸新聞記事からの引用である。

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